作曲家の為の秀逸コード進行2
前回は曲にグッと来るフックを与えるノンダイアトニックコードについて書いたが、今日は転調について。
雨にキッスの花束を(今井美樹)
(作曲:KAN)
Yawara! Opening 02 - 雨にキッスの花束を
この曲は柔道アニメ「YAWARA!」の主題歌。作曲がKAN氏だ。
そう、あの「愛は勝つ」が大ヒットしたKAN氏の作曲だ。
KAN氏は世間一般的には「愛は勝つ」の一発屋なイメージを持ってる方も、もしかしたらいるかもしれないが、一発しか売れなかったのが不思議なくらい素晴らしい作曲家だ。
そもそも同じミュージシャンとしては一発屋といって小馬鹿にするような事は絶対にない。
一発も当ててない立場から一発でも当てた人を馬鹿にする事はできないというのはきっと小学生でもわかる理屈だろう。
まぁ好き嫌いは言ってもいいと思うけどね。
では曲を聴いてみよう。
0:49〜1:05
サビの部分前半8小節だ。
おわかり頂けただろうか...
歌詞で言うと
「嘘でしょう立ち止まったまま」
の部分でグッと魅かれるものがないだろうか?
サビの前半8小節のコード
F♯m7 F♯m7/B EM7 C♯m7
F♯m7 F♯m7/B G♯m7 C♯m7
Am7 Am7/D GM7
F♯m7 F♯m7/B
赤字の部分である。
このAm7に行った瞬間かなり悶えさせられる。
ではこの悶えされられた部分に何が仕込まれたのかと言うと、この赤字部分だけ転調してるのである。
この曲のキーはEメジャーで、コード譜の前半4小節はキーEの
Ⅱm7→Ⅱm7/Ⅴ→ⅠM7→Ⅵm7
(2→5→1→6)
Ⅱm7→Ⅱm7/Ⅴ→Ⅲm7→Ⅵm7
(2→5→3→6)
と進行して次のAm7ではキーがGメジャーに転調している。
Gメジャーに転調して
Ⅱm7→Ⅱm7/Ⅴ→ⅠM7
(2→5→1)
そしてすぐさまEキーに戻って
Ⅱm7→Ⅱm7/Ⅴ
(2→5)
である。
それほど長くなくすぐ元のキーに戻る転調を部分転調と言う。
このテクニックは
「聴き手の調性の期待を裏切る」
という効果がある。
我々の耳は普段無意識に調性を感じながら音楽を聴いている。
だから急に転調されると耳がびっくりするのだ。
調性とは簡単に言うとその曲のキーの事である。
「いや~音楽の勉強なんてしたことないからキーの事なんか考えた事ないしそんな事意識してなんかいない!」
という事ではない。
我々が生まれてきてずっと耳にしている、世間一般に流れてくる音楽は全部調性音楽でありそれを聴いて育ってるので自然と調性が養われてるのだ。
日本人で「ドレミファソラシド」を歌えない人はいないだろう。
実際歌うには慣れてなくてピッチがふらつくという事はあっても「ドレミファソラシド」のイメージはできるだろう。
それは義務教育だったり普段生活で流れてる調性音楽のおかげだ。
この「ドレミファソラシド」を基に調性音楽は作られてる。
カラオケで「キー1個だけ下げてー!」というのはよくある事だ。
例えばキーがDだったら一個下げでD♭になるが、調号で言うと
「♯2こ付いてるのを全部取って♭5個付ける」
という複雑な作業になる。でもそんな事は誰も考えてないでキーを変えて歌える。
「1個下のドレミファソラシド」みたく感じてるのだ。
それが調性だ。「移動ド」とも言う。
このカラオケの「1個下げ」は相対音感とも言う。
だから絶対音感のある人は「絶対」というくらいだから上記の複雑な作業をしなければならないから転調が苦手らしい。
絶対音感も良し悪しだ。
あと音痴の人も例外である。
このように生活で常に調性を感をじて、備わってきてるものを裏切るので転調の効果は絶大なのである。
KAN氏の作曲テクニック恐れ入った。
最後にKAN「愛は勝つ」の誕生秘話を。
ある日KAN氏を友人が訪ねて来た。
どうやら彼女にフラれそうだという恋愛の相談らしい。
しかしKAN氏はその時作曲中で相当うっとうしかったらしく生返事で、
「大丈夫、愛は勝つよ」
とテキトーな事言ってその友人を帰したらしい。
これは凄いエピソードだ。
「愛は勝つ」
は恋愛応援ソングではなく、
女々しい恋愛相談をしてくるウザい友人をテキトーな事言って撃退した歌なのだ。
なんたる皮肉屋。
最後と言いながらもう一つ!
KAN氏の俺が一番好きな曲を聴いて欲しい。
もう本当にカッコいい曲!
惚れた!
俺の好みの押し付けになってしまう事を承知で言わせてもらえば、きっと今日から毎日聴きたくなるくらいカッコいい曲!
サビのセクション、シンコペーションするスピード感のあるテンポとロングトーンのストリングスとの対比が気持ちいい!
絶対聴いて欲しい!
エンディングにも大きなシカケがあるのでお楽しみに!
※編曲は佐藤準氏
この「それでもふられてしまう男(やつ)」と言う曲、実は「愛は勝つ」のカップリング曲なのだ。
「愛は勝つ」のカップリングが「それでもふられてしまう男」とはこれまたとんでもなく皮肉が効いてる。
当時のKAN氏
若くて可愛らしい感じ。
こう見えて皮肉屋で、音楽に対するこだわりも強く当時よく音楽の事でスタッフと喧嘩になったらしい。
現在はこちら
間違えた!
KAN違いだ!w
こっちだ
年齢を重ねた感じもまたいい。