俺とベース

俺の好きな音楽とベースと機材と... 「みんな名曲、名演、名機なのだ」

作曲家の為の秀逸コード進行1

コード進行は曲を構成する根幹だと思っている。

もちろん主役はメロディーだが、同じメロディーでも付けるコード進行によって曲は信じられないくらい変わってしまうものである。

 

言うまでもなくトラックもサウンドも重要であるが、その作業に取り掛かる前のメロディーとコード進行で曲の根幹は決まってしまうと俺は考えてる。

 

サラッと聴けていい感じのPOPな曲も実は随所にさりげないコードアイデアの技が光ってる事がほとんどだ。(特にJ-POPにおいては)

 

なので常日頃、次のプラグインのセールが気になってしょうがないDTMerも、大枚はたいて買ったケンパーの実力を早く試したい宅録ギタリストも、トラック作りに入る前に書かれたコード譜のアイデアをもう一度練ってみたらもっと曲が素晴らしいものになるかもしれない。

 

 

このシリーズでは名曲の優れたコードアイデアを紹介していく。

 

コード進行は一曲通しての構成が重要である事はもちろんなのだが、聴く人にとってそのワンポイントがその曲に大きなフックを与えてると思う部分に絞って解説したい。

 

 

Lemon(米津玄師)

(作曲:米津玄師)


米津玄師 MV「Lemon」

 

最近の曲なので知ってる人も多いと思う。

 

前述で「さりげないコードアイデア」と書いているが、俺の言うそれは主に借用コードや代理コードのうまい使い方の事である。

つまりダイアトニックコード(曲のキーの音階のみから導き出されるコード群)以外のコードの使い方である。

これをうまく使う事で聴く人に大きなフックを与える事が出来ると考えてる。

 

 

この米津玄師氏のLemonという曲もところどころにコードワークのテクニックが使われてるが、俺の思う一番フックになった部分を紹介する。

その部分の前の小節から再生されるように貼っておいた。

 

Lemon(その問題の箇所)


米津玄師 MV「Lemon」

 

おわかり頂けただろうか....

 

1:21のところだ。

歌詞で言うところの

「帰れな

赤文字の部分である。

 

コードで言うと

 

Fm7-5

 

という事になる。

 

 

理論的な事はまず置いておいて、これを聴いてフックを感じたかどうかの方が重要だ。

感じない人は別にこのアイデアを今後に生かさなくてもいいと思う。

俺個人的にはここのコードはグッと来るフックを持った部分である。

 

このパターン、特別類い稀なアイデアというわけではなく過去にも割とあるのだが俺はこのパターンは好き。

例えるなら、たまに食べる事はあるけど何度食べても美味しい好みの食べ物みたいなものかなw

しかし曲全体の構成の中で使うタイミングのセンスとしては米津氏のこの曲はやはり絶妙なテクニックだと思う。

 

ではこれを聴いてグッと来た人に少しだけ詳しく解説していく。

別に何も感じなかった人はここで読むのを終えて頂いて結構。

 

出来るだけ譜面や理論的な部分は使わずに解説したい。

何故なら音楽理論にアレルギーを持つ人は長々としたそういう解説を読んでると頭痛がしてくるからだw

 

俺もそうだw

 

目的はこれを読んだ人(や俺w)がこの曲のアイデアを今日から自分の作品に応用していける事であり、それが達成できれば理論など二の次である。

 

 

 

まず、この曲のキーはBメジャー。

問題のFm7-5は度数でいうところの

 

♯Ⅳm7-5

 

という事になる。

 

もちろんダイアトニックコードではない。

 

このパターンが何故グッと来るフックを持ってるかをあえて言葉で説明するならば、

 

「終止感の期待を裏切られたから」

 

だと思う。

 

では裏切られなかったらどうなっていたのか?

 

再生箇所のコードを見ていこう。

 

Cm    Gm     E    F     Fm7-5

 

これが曲の裏切られたパターン。

問題のコードの前、E Fと進行してるが、これはE(サブドミナント)F♯(ドミナント)と完全に終止形のパターンだ。これでいくと次のコードはB(トニック)と耳は予想するのだが裏切られる形となった。

 

 

ここで一つ、「偽終止」という言葉だけ説明させて欲しい。

 

偽終止とは終止形の本丸ではないが(本丸はトニックⅠmajor)聴覚上ある程度終止感が得られるコードの事である。

ダイアトニックコードのⅥm、Ⅲmである。この曲のキーで言うところのGmDm。コードを演奏できる楽器を持ってる人は耳で確認してみて欲しい。この曲ではDmは少し強引に聴こえるかもしれないがGmはしっかり終止感を感じると思う。

何故これらのコードが偽終止に使えるかと言うと、トニックコードと構成音が似てるからである。

 

 

ではFm7-5は何なのかというと、俺はこれも偽終止の一つだと思う。

何故断定しないかと言うと音楽理論は理論と言いながら時に解釈が分かれたりする事があるのと、俺が楽典的音楽理論にあまり明るくないからだw

ちなみに楽典は読んだ事がない...

 

何故偽終止だと思うかと言うと、Fm7-5は転回するとGm6(Ⅵm6)になる。

だから偽終止のGmと構成音が似てるので偽終止の代理コードとして使えるという事になる。

なので逆に言えばFm7-5の代わりにG♯mにしてもこの曲の流れは成り立つ。各自音で確認してみて欲しい。

でもこの曲の通りFm7-5の方がグッと来るものがないだろうか?

 

ちなみにGm6はこの曲の平行調であるGm旋律的短音階(メロディックマイナースケール)から導き出されるコード。

 

結論:♯Ⅳm7-5は偽終止の代理コード

 

このように裏切られる事になったのだが、では裏切られて終わりかと言うと...

 

曲の続きを聴いてみよう。

 

Cm   Gm    E   F    B

 

おぉ!!!

 

先ほど俺や皆さんが予想したB(トニック)でガッツリと終止してるではないか!

 

 

 

最初はおあずけしにて最後はちゃんとエサをあげるって感じかな。

 

 じらしておいて最後は挿れてあげるとも言える。

 

 

 

このように、世に出てる名曲はサラッと聴いてしまえば気付かないようなところに絶妙なコードテクニックを使っている。

 

もちろんダイアトニックコードだけで書かれた曲が必ずしもつまらない曲だとは言ってない。ダイアトニックコードだけで書かれた素晴らしい曲も多数ある。ベットミドラーのローズや前回ブログで取り上げたポールマッカートニーのシリーラブソングもダイアトニックコードだけで書かれている。

 

かく言う俺も本当はダイアトニックコードだけで書いて素晴らしい作品に仕上がった曲の方がコードを凝ったものより優れていると思っている。

でも何故凝ったコードアイデアを研究するかと言うと、一つはその方が聴く人にフックを与えるテクニックとして簡単だからというのがある。もう一つは選択肢を広げる事。コードワークのテクニックを知らないのでダイアトニックコードだけでしか書けないのと、知ってる上であえてシンプルなコードで仕上げたのとはワケが違う。

 

こういう工夫を知ってた方が作曲人生は豊になると思う。

 

 

 

最後に、米津玄師氏は「ハチ」という名前でボカロPとしてyoutubeで人気を博したらしいが....

 

自分で歌えてそんなイケメンなら最初から自分で歌えよw

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